ダブクロ卓「What am I to you」のif二次創作。
新旧バディがトリオになってわちゃわちゃする話のその1
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アウェイクン・鈴野春香、プロミネンス・天城和人との戦いに勝利し、伊吹は右腕のリニアキャノンを構えたまま、足早に天城の元に向かう。
オーヴァードの超人的な回復力を超えて負傷をした天城は、苦しそうに柱にもたれていたが、伊吹が目に入ると余裕ぶった笑みを浮かべた。
「天城」
天城を殺す覚悟なら、もうとうに決めている。
だが、別れの言葉を言うことくらいは許されるだろう、と伊吹は口を開いた。たとえ天城が自分のことを覚えていないとしても。
声をかけられた天城は笑みを崩さずに、「よう、伊吹」と答えた。
「お前、思い出したのか?」伊吹は驚きながら言う。
「ああ。ずっと頭にかかっていた霧が晴れたような感じだ。すっかり思い出したよ、全部な」
自分のやってきたことを思い出した天城の瞳は、悲しげな色をしていた。天城にかかっていた洗脳は解けたらしい。
「どうやら俺はジャームになっちまったみたいだな。約束通り、お前が殺せよ」
天城は手足を投げ出した無防備な姿で言う。
伊吹は少し考えてから、「そのつもりだったんだが、悪い。今はまだ殺せない」と言った。
「洗脳が解けて、記憶も戻ったんだ。もしかしたらまだ戻れるんじゃないかとか、そういうことを考えもするだろ」そう話す伊吹の声は微かに掠れていた。
「甘いな。そんなことを言って、俺がまた誰かを襲ったらどうするんだ。殺せよ」天城はどこか偉そうにも見える様子で、伊吹に自分を殺せと言う。自分が誰かを傷つけることを恐れているのだと、伊吹にはわかった。
「安心しろよ。お前がジャームだと判断がついたら、きちんと俺が殺してやるから。ちょっと待ってろ」
そう言って伊吹は、天城に背を向け、白雪に声をかけに行った。
「さっきまで戦ってた相手に背中を向けるなんて、油断しすぎだろ」天城は小さな笑みと独り言を漏らしたが、伊吹には聞こえなかった。
数日後、N市支部の支部長室にて、伊吹と白雪は日本支部長の霧谷とビデオ通話をしていた。
画面越しに霧谷が言う。
「天城さんのことですが、長い間かけられていた洗脳が解けたことで、ロイスを取り戻し、どうにか完全なジャームにはならずにすんだようです」
天城の無事を聞いて、二人は安堵のため息をついた。それを確認して霧谷は続ける。
「現在、洗脳されていたという事情も鑑みて、精密検査とカウンセリングを行っています。それが済んで問題ないと判断されれば、UGNエージェントとして復帰する予定です」
「天城さんへの負荷も考え、まずは出来るだけ慣れた環境で任務に復帰してもらいたいと思っています。そこで伊吹さんと、現在コンビを組んでいる杉宮さんとともにトリオを組んでもらうのはどうかと検討しています。ただし……」
霧谷は言いにくそうに目を伏せる。
「当分の間は天城さんの監視もかねてということになります。今回の件は特殊な事例なので、彼が完全に戻ってこれたとはまだこちらでも断言できないのです」
それを聞いて白雪は顔をしかめた。伊吹は表情を変えずに聞いている。
「もし彼がまたジャーム化するようなことがあれば、伊吹さんにはつらい選択をさせることになるかもしれません。ですので、無理にとは言いませんがご一考ください」
そう言って考える時間を与えられたが、そんな時間は必要なかった。
「やりますよ」画面越しに霧谷をまっすぐ見つめて、伊吹は答えた。
「あのときだって、あいつの記憶が戻らなければ俺が殺すつもりでいたんだ。殺すなら俺が殺します」
霧谷は少しだけ苦々しげな顔をしながらうなづくと、「そうですか。わかりました。白雪さんも、N市支部での受け入れに問題はありませんか?」と話を振った。
白雪は「もちろん問題ありません。こちらで必要な準備は数日中に進めておきます」と答えた。
「ありがとうございます。天城さんの復帰時期については、また改めて連絡します。それではよろしくお願いします」そう言うと霧谷からの通信は切れた。
「伊吹くん」白雪は躊躇いがちに伊吹に声をかける。
声をかけられた伊吹は、なんですか?というような顔で白雪を見る。
「いえ、こんなことを聞くのも野暮かもしれないけれど……、大丈夫?」聞いてどうなることでもないとわかっていたけれど、聞かずにはいられなかった。
「大丈夫ですよ」伊吹は迷いもせずに答える。
「……あいつがジャーム化したら俺が殺すって、元々そう約束してたんで。だから大丈夫です」その瞳には迷いはなかった。
「そう……。そうね。わかったわ」白雪は渋い顔でうなづいた。
「本当はあなたにそんなことをさせたくはないけれど……、天城くんを頼むわね」
「はい」伊吹は力強くうなづくと、支部長室を出た。
事件から数週間が経ったある日の夜、UGN N市支部内の一室にて、天城と伊吹と杉宮は顔合わせをしていた。
「と、いうわけで、この3人でトリオを組むことになった。あーとりあえず自己紹介でもしとくか?」伊吹はそう言って天城に視線をやる。視線を受けた天城はうなづいて、「天城和人だ。改めて、この前は迷惑をかけてすまなかった」と他の二人に向かって深く頭を下げた。
「今日からまたエージェントとして戻してもらえることになったから、よろしく頼む」
「……杉宮楓です。よろしく」しっかりと杉宮を見つめて自己紹介した天城とは対照的に、杉宮は目を伏せながら言った。その声音はいつもよりも固かったが、握手をしようと天城が差し出した手には応えた。
「まあ今すぐにどうこうって任務があるわけでもないし、顔合わせはこれで終わりなんだけど、杉宮はこの後平気か?」と伊吹は杉宮に尋ねる。
「用件次第ですね」と杉宮は答える。
「さっき支部長から3人で美味しいものでも食べて親睦を深めなさいって1万円もらったからさ、うちで飯食ってかない?」伊吹は平然と言った。
「は?ちょっと意味がわからないんですけど」と杉宮が厳しい口調で言う。その実、内心では「うちで」ってどういうことだよと困惑していた。
「いや、お前の言いたいことはわかるけどさ、普通どっかに食べに行くかって話になるだろ」天城は杉宮の反応を見て、伊吹への呆れと懐かしさで笑ってしまった。
「いや、美味いもん食えって言われたからお前のメシかなと思って」伊吹はなんで笑われてるかもわからず疑問符を浮かべた。
天城は、「メシはいつでも作ってやるからさ、今日は外で食おうぜ。1万円ももらったんだろ。焼肉とかどうだ?」と、さりげなく方向修正をする。
「あー焼肉もいいな。で、杉宮はどうする?」伊吹が改めて杉宮に尋ねる。
杉宮は少し考えてから、「まあ、そういうことなら、行きます。支部長のお心遣いもあるみたいですし」と、歯切れが悪そうに答えた。
「じゃあ決まりだな。行くか」と言って、三人は焼肉屋へと向かった。
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生存if トリオ結成編おわり
続くといいな