カインにときめくも、恋愛感情がよくわからなくて不安と勘違いするリディアの短編です。
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夕暮れ前にたどり着いた町で、あたしたちは今夜の宿に向かっていた。
以前この町を訪れたことがあるというエッジが先頭を歩き、その後ろにセシルとローザが続く。
あたしはカインと並んで歩くけど、他のみんなと比べてあまり話したことがないし、なんだか少し気まずい。
今日はお祭りの日らしくて、大通りの脇にはたくさんの出店が出ている。
馴染みがない食べ物も多くてよくわからないけれど、あちこちから美味しそうな匂いがする。
あっちのお店の大きな飴、キラキラしてて綺麗だなあ。こっちのお店のお肉はどんな味がするんだろう?とキョロキョロしていると、ふいに左腕が引かれる。そしてその勢いのままにカインに抱き止められる。
びっくりしてぽかんとするあたしの横で、カインはあたしがぶつかりそうになった誰かに謝っていた。
「気になるのはわかるが、しっかり前を見て歩け。ぶつかるぞ」
「そっ、そうだよね。ごめんなさい」
話しながら再び歩き出すが、前を歩いていたセシルたちの姿は見えない。
「ごめんなさい!随分置いていかれちゃったみたい!しばらくはこの通りを真っ直ぐって言ってたよね!?早く追いかけなくちゃ」慌てて捲し立てると、いたって冷静な返事が返ってくる。
「目的地は一緒なんだ、そう焦らんでも合流できる。少し落ち着け」
カインの言葉に、あたしはうんうんとうなづいた。
うなづきながら疑問に思う。あたし、なんでこんなに焦ってるんだろう?
セシルたちとはぐれたとはいえ、一人ぼっちになったわけではないし、宿を探せば合流できることはわかってる。そんなに焦るようなことじゃない。
じゃあどうして?
さっきからなんだか心臓がドキドキしてる。
小さい頃、お母さんに抱きしめられたり、セシルたちに抱き抱えられたりしたことだって何度もあるはずなのに。そのときは安心したはずなのに。
よくわからなくて不安な気持ちになる。
「おい、カイン、リディア!遅えぞ!何やってんだ」
みんなから遅れたあたしたちの様子を見に戻ってくれたのか、エッジが言う。
「悪いな。宿は見つかったのか」
「おう、今セシルが手続きしてる。ったく、さっさと行くぞ」
そう言うと2人は歩き出す。置いていかれないようにあたしもついていく。
さっき感じた焦りや不安はもうない。
心臓のドキドキも収まったみたい。
何だったんだろう?と気にはなったけれど、
「こら、ポケっとすんな!またはぐれても探しに行かねぇぞ!」
「ポケっとなんてしてないよ!」とエッジと言い合ってるうちに忘れてしまった。
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あとがき
初めてこういった小説を書きました。推しカプの力ってすごい。
この後も事あるごとに挙動不審になって、リディアが自覚するより先に気づいたローザにあらあらって見守られて欲しいです。